近況
いつも思うのは、ここに書くのはただの近況ではなく、読んだひとになんらかの新しい視点みたいなもの――ユニークな情報とか仮説とか――を与えられるものにしたいということ。なので、今回もそんなものを。
同じような体質の方たちの参考になればと。
モニターに向かって文章を書くのはほぼひと月ぶりです。ひたすらじっと息を潜め、痛みや変調が去ってくれるのを待っていたのですが、これがどうにも長っ尻で、完全に居座ってしまったみたいです。
前々回にも詳しく書いた肩の痛みですね。これがよくない。
いわゆる四十肩なら、じっとしていても疼くような痛みというのは二、三週間で去っていくものなのに、ぼくの場合は四ヶ月ですから、これはどうやら違うな、と。
で、病院で診てもらったら、肩関節がずれてしまっていると言われました。
まず初めに胸側の筋肉の緊張ですね、これがあった。そのために肩の付け根が身体の前方に出てしまっている(写真参照)。
後ろの壁に無理矢理つけようとしても、二センチぐらい浮いてしまう。ロックしてそれ以上行かないようになってる。
また首の筋肉の緊張のために上方に上がってしまってもいる。鎖骨がすごいV字になってる。究極のいかり肩ですね。
ずっとこうだったので気にもしてなかったんですが、ここでいっきに痩せたために、筋肉が落ちてしまった。
肩も前方に引っ張る筋肉と拮抗していた裏側の筋肉がとくに落ちたために、均衡が崩れ痛みが発生した、と。そういうことらしいです。原因は身体の緊張と痩せたことにあった。
また、ある先生からは、痩せすぎたことが痛みの識閾値を引き下げたんじゃないか、とも言われました。前にも書いたけど脂肪は神経を鈍くする作用があるので、それがないことは五感をより過敏にしてしまう。ほんの小さな差違にえらく敏感に気付くようになる。この続く不調は、空気中になんやかや不純物が混じったために、それに過度に反応しているのでは? とさえ思ってしまいます。化学物質過敏症みたいな。
肩は半分外れ掛けていて、腱がすっかり延びきってしまっている。それが痛みの原因。
動かないのは、本来の位置ではないためにあちこちがぶつかってロックしてしまうせいなんですね。気付かないうちにひどいことになっていたもんです。
なので、胸の筋肉のストレッチと裏側の筋肉のエクスサイズを始めました。
ただ炎症があるために、動かせるのはほんのちょっと。やり過ぎ厳禁。
腕振って三十分歩くだけで、もうその夜はのたうち回るほど両肩が痛くなるんだから。ぎりぎりまで延びきった腱が何千回も引っ張られて傷付くんでしょうね。その痛いことと言ったら。
ほんとは両腕を吊っているのが一番なんだろうけど、それではなにもできない。
で、さらに、と言うか、これが一番の問題なんだけど、慢性的な痛みが脳の状態を変えてしまう。内分泌が変わる。
痛みというのは非常事態だから、脳はそれに反応する。ぼくの場合はより大袈裟に反応する。大袈裟な脳だから。
脳内モルヒネ、βエンドルフィンみたいなのがどばどば出るようになる。
それで痛みが治まるだけならいいんだけど、体調がすごくおかしくなる。
これが前例のない症状で、言葉ですごく言い表しづらい。
あえて言うなら、パニック発作のあの「なにかがすごい勢いで募っていく」感覚と、低血糖症のあの「身体がどうにも情けない」感覚と、熱の出始めのあの「身体全体の言いようのない違和感」を足したような感じ。でも、それだけじゃない。
肩の痛みがひどくなると、そのあとでこの症状が出る。朝夕は必ず。いいときは一時間ぐらいで去っていくんだけど、悪いときはもうずっと一日この状態。
同時に手汗と心悸亢進も起こるし、悪寒もある。
でも、熱が上がっていく感覚はないんですね。むしろショック状態のときの震えに近いかもしれない。鼻の奥にきな臭い匂いが広がることもある。
体温は口の中で、朝37.7度、夜38.2度でした。
たしかにひとよりは高いけど、ぼくにとっては普通で、だから熱が出ている感覚はない。
心悸亢進、高体温というとバセドー病を思い浮かべるけど、以前にも書いたとおり、甲状腺の検査はいつも白です。
それにぼくは汗をかかない。だから水も飲まないし、あんまりトイレにも行かない。
これは大きな違い。
脳が高体温を求めている。
汗を抑え、毛細血管を収縮させて体表からの放熱を抑える。筋肉を緊張させて熱を発生させる、肝臓も同様。
これが甲状腺のエラーだと、脳はびっくりするんですね。「これはまずい」と。なので、ものすごく汗をかいて体温を下げようとする。
ぼくの場合は生まれつきの設定なのでしかたないです。
最近はストレス性発熱みたいな言い方もするけど、赤ちゃんのときからですから。
八歳ぐらいまでは半月に一度は40度の熱を出していた。いわゆる知恵熱。
それが十歳ぐらいから二十歳前までは落ち着いていた(陸上競技をやっていた時期と重なるので、それが理由かも。度を超えた運動量が放熱の役目を果たしていた?)。
二十歳からは37.5度を超える微熱が続いて、三十代に入ってまた高熱が。
42度を超えましたからね。これが何度もやってくる。
こういう高熱は脳の構造を変えてしまう。
思えば、追想発作、嗅覚幻覚、共感覚的な現象等々は、すべてこの頃から始まった。
そしていまはまた高めの体温が続いている。
高体温はカロリーを考えると不経済で、だからひとは免疫をある程度抑えて36度台の体温で落ち着いている。
ぼくはカロリー度外視でやってますから、この点は強いです。
いまも家族はみんな夏風邪でえらいことになってますが、ぼくはどこ吹く風。
奥さんは40度の熱を出しましたからね。みんな一ヶ月ぐらい続く。
彼女がごほごほいいながら手渡してくれた桃とか食べてもなんともない。うつる気がしません。
虫歯とかもそうです。小学校のとき学校の検査で無理矢理歯医者行かされて、そこで穴あけられて変なもん詰められた。それ以来、新しく歯を治療したことがない。そもそもそのときだって、ほんとに虫歯だったのか。十年に一度ぐらい、詰め物が取れたのをまた入れ直しにいくぐらいです。
口腔内の免疫力ですから、歯周病もそう。父親は八十近いけど、ほとんどの歯が残っている。母もそうでした。
いわゆるトレードオフってやつ。あれが良ければこれが悪くなる。どちらもほどほどが一番いい。
この高体温が太れない原因ならば、やっぱり弊害は大きい。
外出したときも、久しぶりに歩けなくなって彼女の肩を借りましたからね。これはやっぱりまずい。服も自分では脱ぎ着できないので、彼女にやってもらっている。
これはもうすでに介護ね、と彼女からなかば本気で言われました。笑えないです。
あと脳の状態がおかしいのか、認知的な問題も起きます。
自分でもびっくりしたのは、いつもの場所に歯ブラシが置いてあるのに、それに気付かず、新しい歯ブラシをおろしてしまったこととか、あと、熱を冷ますために一年中額に冷却ジェルを当てているんだけど、冷蔵庫のどのドアにそれをしまっているか忘れてしまって、すべてのドアを調べちゃったこととか。毎日、何度もやっていることなのに、ふと忘れてしまった。
前頭葉の働きがきょくたんに弱くなっている。
いつも思うのは、「ロルナの祈り」っていうベルギー映画。
ロルナの偽装結婚相手のクローディって麻薬中毒の男が出てくるんだけど、これが自分に似ているなあ、と。すごく痩せてて、離脱症状なのかいつも胃けいれんを起こしている。
奥さんは、彼のほうがよほどしっかりした身体をしていると言いますが、どうなんだろう。写真と見比べて下さいな。
彼は、クリーニング店で働いているロルナに、「何時に帰ってくる?」としつこく訊ねます。愛のない偽装結婚なので、ロルナはこのあたりつれないんだけど、もう彼はすがるようにしてそれを訊くんですね。帰ってくる時間が分かれば、それを支えに一日をしのげるから、って言って。
ぼくも働きに出掛ける彼女にいつも訊きますもんね。何時に帰ってくる? って。彼の気持ちがよく分かります。
こんな状態なので、これから先、どれほどの小説が書けるんだろうと心許ない気持ちになります。無駄はできない。
ぶれてはいけない。世界の優しさの総和ですね、それをほんの少しでも増やしたいという思い。すべては言葉です。優しい言葉や美しい言葉が世界にあふれれば、それが世界の気分になる。攻撃的な言葉や露悪的な言葉が世界にあふれれば、それが世界の気分になる。
表現物はその人間の心そのものです。文化はその集団の心そのもの。攻撃的なものがあふれているのなら、その文化をつくった集団の心は攻撃的であると。
「銀河ヒッチハイク・ガイド」の初めのところに、「そんなこんなのある木曜日のこと。たまには人に親切にしようよ楽しいよ、と言ったばかりにひとりの男が木に釘付けにされてから二千年近く経ったその日――」って言葉があります。
優しい気持ちが世界を覆い尽くす日はいつくるのか...
この腰の狭さも問題なんですよね。歩くのやめたら腰痛がまたぶり返してきた。ガラスの腰です。
はくズボンがなくて、ユニクロで女性もののSサイズを買ってます。