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これまでの短編、掌編-2

 「さよならのかわりに」 メディア・パル 「本からはじまる物語」

 2007年の作品ですね。単行本なんだけど、これも17人のアンソロジーなので、この中にいたことを知らなかった方も多いと思って。

 孤独な中年男性が自分の人生を本に残そうとする。その出版社の女性は、彼がなにも言わなくても、触れるだけで彼の人生を読み取り、本に起こしてくれるという。生き別れた息子や、すでにいまはもういない妻との日々が蘇る...

 「ふたり流れる」 講談社 「こどものころにみた夢」
 これもアンソロジー。12人の中のひとり。
 祖父の七回忌で田舎に帰った青年が、隣の家の幼馴染みの女性を見舞って、そこで語られるふたりの「夢」の話。
 これは大好き。とりわけ好きな小説。ぼくは本当に夢の話が好きなんでしょうね。

 次は幻冬舎の「PAPYRUS」

 「恋サス」 VOL2

 女子大生が好きな男子に告白の手紙を送ったんだけど、彼が別の女性と付き合うって話を聞いて、大慌てでその手紙を回収しようとするって話。「フランクの穴」と同時期、すごくハイになっていたときの作品ですね。女性一人称が一番自分にしっくりくる文体だって気付いた頃。

 「いじっぱりのあいつ」 VOL14

 本の装丁家を目指している青年。彼のもとを訪れる幼馴染みの女性。彼女は大学で建築史を学んでいる。研究室の男性の先輩と一緒にヨーロッパにしばらく行こうと思うんだけど、と彼女は彼に切り出すが...
 これも女性一人称。万華鏡が重要なアイテム。


 「泥棒の娘」 VOL31
 男性一人称。学校一の変わり者の女の子に恋をしてしまう主人公。彼女が孤立したときに、彼はそっとメッセージのカードを送るんだけど...
 これはあとに出てくる祥伝社の「赤道儀室の幽霊」と対になっている。同じ時期に書いた、同じ主題の話。
 孤独なふたりが夜の町で出逢うっていうのも一緒。こちらは面白可笑しくて、あとで悲しいって感じ。

 「Your Song」 VOL36
 「泥棒の娘」のアンサーソングみたいな小説。あちらが男性一人称に対して、こちらは女性一人称。しかも呼びかけ形式。つまり手紙っぽい文体。あちらは中学で、こちらは高校。
 学校一の変わり者の男の子に恋をしてしまう主人公。彼女は陸上の長距離選手。彼が彼女にマラソン大会で10位に入りたいから指導してほしいって持ちかけてくる。10位に入ったら学年一可愛い女子生徒がキスしてくれるって言うから...
 まわりの評判がきわめてよく、それはきっと「恋愛寫真」とかの手触りに似ているからかも。

 次は祥伝社の「Feel Love」

  「白い家」  Vol.6

  病院で出逢った青年と恋に落ちる女性。彼は無名の作家で、森の中の一軒家に住んでいた。彼が病院で睡眠薬を処方してもらっていることにはある理由が...
 これも「夢」の話。女性一人称なんだけど、こっちは落ち着いた感じ。「吸涙鬼」的。

「スワンボートのシンドバッド」  Vol.7
 天文台が舞台。作家の妻が主人公。女性一人称。大赤道儀室で、彼女は昔の夫と出会う...
 けっこういまの自分たちに近い設定。これは珍しいこと。


「赤道儀室の幽霊」    vol.10
  男性一人称。高校が舞台。徹底して夜の場面ばかり。孤独な二人が夜の町を歩きながら、心を通わせるという話。やりきれないぐらい哀しい話なんだけど、ぼくは好きなんですね。強烈な感傷。

「 花の呟き」  vol.11
  女性一人称。植物園でスケッチをしていたホームレス風の青年をなぜか家に招いて泊めてしまい、そこから奇妙な共同生活が始まって...
 「パリ・テキサス」の冒頭の映像を思い浮かべながら書いた作品。 

「I’m coming home」 vol.12
 三人称。一部男性一人称。呼びかけ形式。
 「いま、会いにゆきます」「separation」「黄昏の谷」の系譜。それの最新版。
 この主題はずっと書き続けるんでしょうね。妻への愛と走るという行為が初めて結びついた作品。なぜいままでこれを書かなかったのかも不思議。そのぐらいぼくの存在と深く結びついている。愛と郷愁。奥さんは「日本むかしばなし」みたいと言いながら、激しく泣いてました。

 
 こう書き出してみると、あんまり仕事してませんね。まもなく十年になりますが、精力的な作家さんなら、この十倍は書いているでしょう。ぼくの場合十年のうちの六年ぐらいは、ほんとど作品を発表していませんでしたし。いまもここ数ヶ月、小説は一行も書けていないので、そのかわりにというか、思い出せるかぎり、過去の短編、掌編を書き出してみました。


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これまでの短編、掌編

 カテゴリーという機能にいま気付き、これを使って作品の情報を常時たしかめることができるようにしようと思い立ちました(気付くの遅すぎました)。

 とりあえず、みなさんが目にしにくいもの、単行本化されてないものをここに載せます。おそろしく事務能力がない人間なので、取りこぼしもあるとは思うんですが、思い出せた作品を(ぼくは仕事の記録を残していないので...)徐々に。

 古い掲載誌は図書館で探してもれえばいいんでしょうか? ぼくもちょっとその辺わからないんですが。

  「フランクの穴」 野性時代 2005年3月号
 古いですね...
 新女子大生がアパートの押し入れに穴があるのに気付き、覗いてみると、そこには同じ大学の男子学生が暮らしていて、っていう話です。


 「となりのうちの子」 野性時代 2008年12月号 
 結婚が決まった女性が、思いをまだ残している幼馴染みの青年のもとを訪れる話です。


 「きみの声」 小説現代 2005年6月号
 これも古い...
 「VOICE」と同じように、好きな女性の心の声が聞こえるようになった青年の話。でも、彼女は他の男性と付き合っていて...
  

  「ロレンツとカラス」 前編月刊PHP 2009年7月号 後編8月号
 大学時代に付き合っていた男性が体調を崩し、数年ぶりに再会した彼女は彼を自分の家に住まわせることに。才能溢れる戯曲家だった彼は、けれどあまりに破天荒な性格で、それが別れの原因だったんだけど、と言う話。


 「幸せの先触れ」 サントリー(いまはキリン) フォアローゼスのサイトに載った掌編。
 http://www.kirin.co.jp/brands/sw/fourroses/shortstory/index.html
 こちらの第4夜です。


 「深化」 sony 「浸音(ひたおと)」のサイトに載った掌編
 http://www.sony.jp/audio/community/hitaoto.html


 「そしていまも」「せめていまこの瞬間だけ」 セイコー『CREDOR NODE』のサイトに載った掌編
 これは残念ながら、もう読むことができません。2006年ですからね。作家になる前から温めていたストーリーを使った大事な作品だったので、どこかでみなさんに読んでいただけたらとは思うんですが。
 高校時代、お互い好きだったのに告白することができず、数年後同窓会で再会するふたり。級友たちがふたりを結びつけようと策略し...それを、男性目線、女性目線の両方で書いたものです。


  「ワスレナグサ」 メディアファクトリー 「忘れない。」収録

 これは文庫で出ています。作家十人のアンソロジーなので、ここに入っていることをご存じない方も多いかと思って挙げておきました。これも渾身の一作。「眠り」を待つ子供たちが暮らすサナトリウムが舞台の恋愛小説。1000枚ぐらいのプロットを20枚にぐっと凝縮。

 「壁に留めた心」 小説宝石2004年5月号
 古すぎる....
 でも、これも好きな作品。行きすぎた奥手な恋人たちの究極の婉曲語法。


 無題 「DELTA」 デルタ・グットレムのCDのブックレットに載せた掌編
 モノレールで通勤する青年が、軌道沿いのマンションに住む女性を毎日見かけるうちに恋してしまう、っていう話。

 
 


 

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言葉

前々回、小説で何かできれば、って書いたんだけど、ここに引用するっていうのもひとつの方法だと思い至りました。

 「I'm coming home」
 
 彼女の躰は、彼がずっと思い描いていたとおり儚く、少しでも力を込めれば、たやすく壊れてしまいそうだった。
 美織を守りたい、と彼は思った。生きて欲しい。
 つまるところ、この思い、遠い先の別離を予感し、それに抗おうとする心の在り様こそが、彼の、彼らの愛だった。


 「透明な軌道」
 
 ぼくらは長生きしますよ、と言って彼は笑った。
 真帆はその言葉が嬉しかった。
 愛って「生きて欲しい」って強く願うことなのかもしれない。彼女はそんなふうに思った。母親が子供を育てるのも、恋人が相手の身体を気遣うのも、愛があるから。

 
 エッセイ「きみはぼくの」あとがき
  
 幼いぼくの目から見た母はあまりに弱く、とても長くは生きられないひとのように映っていました。明日にはもういなくなるんだ。毎日そう思いながら、ぼくは息を潜めて母の姿を見守っていました。
 でも、彼女は人生を生き抜きました。すごいな、と思います。そして、母はぼくのために、こんなにがんばってくれたんだなって、そんなふうに思ったりもします。
 ぼくら母子はあまりにも特殊な結びつき方をしていたために、いまでも、ぼくは自分をうまく立て直すがことができずにいます。
 まあ、でも悲観はしていません。ぼくには奥さんも子供もいますから。彼らのために生きていく。ずっと母の背中をさすった手で、今度は奥さんの背中をさすります。
 

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