このブログで「吸涙鬼」という小説を描きます、と書いてからはや六年が過ぎました。その間、「吸涙鬼はどうなりました?」というお問い合わせを、幾度もいただきました。
お待たせしました。ようやく、お届けすることが出来ます。7月15日発刊予定です。
もともと、ぼくは自分が「吸血鬼」なのではないか、と思うことがたびたびあって、それもこの小説を描く動機になっていたかもしれません。
魔女と呼ばれていた人たちが、実際には魔女でなかったように、吸血鬼と呼ばれていた人たちも、実は吸血鬼ではなかったのではないか?
よく、自分と吸血鬼の共通点を考えます。
おそろしく色が白く、肌に青みが掛かっている。
夜眠らずに、光を避けるように闇の中を歩き回る。
異常な活力。まるで獣のように素早く、いつまでも森の中を走り続ける。
嗅覚が敏感で、強い匂いを避ける。
太陽に弱い(これはぼくではなく、うちの奥さんの特殊体質。強い光を浴びるとショック状態に陥ってしまう)。
歳を取らない(うちの家系は異常な若作りで、父親は軽く二十歳ぐらいは若く見られていました。ぼくも三十を過ぎても学生とよく勘違いされてました)。
異常な小食。基本的に食欲はない。
もし、中世にぼくらのような人間がいたら、まわりのひとたちは奇妙に感じ、超常的な解釈をするやもしれない。もともと人付き合いを嫌う者が多いので、それがよけい誤解をひろげてしまう。
知らない、ということは恐怖に繋がります。それが、あのおどろおどろしい吸血鬼のイメージに繋がった。やつらがいつまでも若いのはひとの生き血を吸っているからじゃないのか?
勝手な思いなしですが、こういうふうに考えるほうが、ぼくの性に合っている。
これらの体質はドーパミンの過多が原因かもしれない。
不眠症は明らかに過剰な興奮が原因。どこまでも走り続けるエネルギーもそう。五感が過敏なのも、脳が異常に活性化しているから。
ドーパミンが過多になると食欲はなくなります。覚醒剤がやせ薬として使われるのと理屈は一緒です。
歳を取らないのも、小食と関係しているかも。長命遺伝子は低カロリー状態で発動すると言われていますから。
色白は、むしろ「外胚葉」という概念と関係しているかも。このタイプは肌が繊細なんですね。ぼくは学年で一番の色白でしたが、同時に肌トラブルをいつも抱えていました。
で、ここからが、ぼく独自のキャラクター造形。
まず、ドーパミン過多は当然のように体温が高いんですね。これは吸血鬼と真逆。青白い顔からの連想で低体温に思われがちですが、実は平熱が37.5以上ある。
熱は冷まされることを望みますから、「湿」をぼくらは求める。
ぼくは雨が大好きで、梅雨も好きです。そこから「いま、会いにゆきます」が生まれた。
ひとの中で雨に近いのは、温度の高い血よりもむしろ涙ではないのか?
そうやって「吸涙鬼」のキャラクターが生まれてきました。高い体温に自家中毒的な苦しみを覚え、それを癒すためにひとの涙を啜る。
吸涙鬼は九割方が自分自身の投影です。
ここからは東洋医学的な考え方。三十年も病人をやっているので、東洋医学の知識もかなり増えました。まあ、しろうと解釈ではありますから、かなり曖昧ですが。
それで言えば、ぼくは肝熱タイプなんですね。肝が熱を帯び、それが身体に悪さをする。実証タイプ。陽であり、乾である。
ここ数年はそれがさらにひどくなり、肝火上炎の状態になっている。
症状はこう。
頭暈や頭痛・顔や目が赤い・口苦や口乾・煩躁(はんそう)
不眠、あるいは寝ても悪夢ばかりみる。
脇肋部の灼熱痛・便秘・尿が黄色。
耳鳴り・耳内が腫れぼったく痛み、酷ければ膿がでる。
吐血、などなど...
ほとんどが重なります。
このタイプは異常に痩せているんですね。怒りっぽいっていう症状もあるんだけど、それだけがぼくと違ってます。東洋医学の先生からは、それが症状をさらに悪くしているとも言われてます。本来怒るべきところを怒らないから、身体に歪みが出るのだと。
でも、ひとを責めるという回路がぼくはひどく弱いので、怒るのは難しい。
自家撞着的な問題を抱え込んでしまっている。
これも吸涙鬼に投影しています。徹底して非暴力。おそらくは、それがいっそう彼らの熱害をひどいものにしている。
身体は実と虚の均衡で成り立っているので、肝の陽気が高くても、ふだんは腎陰がそれを中和してくれている。なので、腎陰が虚になっても、やっぱり熱害は生じてきます。ブレーキが利かない。
これを腎の陰液が不足する、と言います。
陰液とはひとの体液のことです。ぼくは小説の中で、これを勝手に涙と定義し、それを補うことで、彼らが回復するという設定を作り上げました。
彼らは徹底して陽、躁ですから、ここで補う涙は、陰、鬱でなければならない。
だから、彼らは相手に「悲しみの感情」を流し込みます。そこから生じる涙だけが熱を中和してくれる。
涙を吸われた人間は、悲しみと性的歓喜を同時に感じますが、あとまで残るのは悲しみだけ。それを繰り返すうちに、その人間は心を損なっていく。
ここに吸涙鬼たちのジレンマがあります。非暴力でありながら、結局はひとを傷つけてしまう。
そこで、もうひとつの回復への道が用意される。
それが眠りです。
東洋医学では眠りは津液を補うと言われています。津液は陰液のうちの血液をのぞいたもの。
小説の中では、彼らは眠るうちに、世界中で毎日流される涙が気化したものを吸収しているんだと説明していますが、実際にも眠ることは熱を下げる効果があるのです。
実は、いまのぼくもそうです。
最高熱に達した頃から、眠くてしかたない状態が続いている。日に何度も気を失うように眠ってしまう。過去にはなかったことなので、ちょっと恐くもあるんですが。
そのうち何日も眠り続ける日が来るのではないか? そんな不安を感じています。
でも、これが自然の本能なのかもしれない。津液を補うために活性を下げ、眠りを促す。
まだ、書きたいことはいくつもあります。
吸涙鬼のパートナーの特性。 吸涙鬼の人の病を治す力。暴力への激しい嫌悪。
それはまた次の機会に。